月夜


 

 


 いい和菓子とはどんな菓子でしょうか。饅頭(まんじゅう)で言うと、アンと、それを包む皮の硬さ、柔らかさ、なめらかさが同じであること。「何だ、単純な」と、思われるかもしれませんが、つくる職人の側から請うと、「単純」が最も難しい。例えば「黒糖饅頭」。口に含んだとき、黒砂糖を使った、なめらかな皮と、アンが溶け合いながらそれぞれの昧を生かして、全体の香ばしさを醸し出す。こうした菓子ができれば−人前とたたき込まれてきた私は、このために一心不乱、月日を重ねてきたようなものです。

 菓子づくりに臨む、この気持ちは、絵筆を握る際にも通じます。今回の「月夜」(1982年=昭和57年作品)は、菓子を配達する日々で見た、幾つもの夜景を、青を基調に黄や赤を配して動静感、透明感を自分の中で最大限膨らませたものです。そして、こうし絵を画(か)く際の基本となるのが「無」の心です。雑念を排し、純粋なイメージを極限にまで高めるための土台とでもいいましょうか。

 実はこの「無」、山形水彩画会の展覧会で出会い、35年にわたる交際を通じて青山貞治先生から教えていただいたものです。

 満88歳になられる今でも、折々の季節の色を自由に扱い、特に人物画に独自の繊細さを見せていらっしゃいます。まったく年齢を感じさせないところは、まさに「無」の心が画かせる技でしょう。私もいつまでも、この心を忘れずに画面に臨みたいものです。ちょうど新しい菓子づくりに挑むときのように。


(水彩画と文 渋谷勝男=和菓子店主)
 
     

 

   

 

   
       
 
朝日新聞山形県版に、夢彩彩を連載しておりました。

夢彩彩、web山形ホームページにてぜひお楽しみ下さい。
渋谷勝男の経歴
   
昭和12年 朝日町宮宿に生まれる
  飛塚安吉先生の指導で17才で県展初入選
  21、22才で個展開く
  県水彩画展 −− 市長賞 山新賞
35年 示現会入選
37年 県展奨励賞
38年 日本水彩連盟入選、以後5回
39年 県展賞
42、44年 県展山新賞
45年 県展賞
56年 示現会湊賞、日本水彩画展奨励賞
   
現 職  県展無鑑査、白風会会員、県美連会員、
     県水彩画会員  示現会準会員